自己変革の裏技

■ その二十　「ケンカを卒業する術」


　名古屋の道路は広くて快適なので、通勤も仕事もクルマを利用する人が多い。

　そんな街の中を、30代になったばかりの私は、気分よくクルマを運転しながら会社に向かっていた。軽だったが私にとっては初めての新車。慣らし運転もそろそろ終わりかな、という頃だった。10年ちょっと前の話。

　突然、横から赤いプレリュードに割り込まれ、あわや接触という場面があった。若かった私は、それで頭に血がのぼってしまった。

　「軽だと思ってバカにするな！」と叫びながら、アクセル全開。フル加速。追い抜くや、ステアリングを思いっきり切って、プレリュードの前に出る。で、右へ左へ、徹底的に進路妨害。

　これにはプレリュードも面食らったようで、急きょスピードダウン。私は、赤信号の交差点に来たところでクルマを停め、「まいったか！」とばかりに、すぐ後ろの奴を睨みつけた。

　すると、運転席のドアが開いた。（上等だ、やってやろうじゃないか！）

　ところが、ところがである。プレリュードから降りて来たのは、刺青をした“893”な方だった。

　次の瞬間、私は窓越しに襟首をつかまれていた。

　「馬鹿やろう！！！！！！！！　オレを誰だと思っとる〜！！」

　「す、すみません。てっきりかぶせられたと思って・・・」

　「ふざけるなぁ〜！！！！　とにかく事務所に来い！　そこだぁ！！」

　「え？」

　頭を上げて見ると、私がクルマを停めた交差点の角に、なんと！　その手の事務所として恐れられている某ビルがドド〜ンとそびえているではないか。

　あちゃぁぁ〜〜〜〜〜〜〜！！　よりによってこんな場所で。
　罵声を浴びせられ、クルマから引きずり降ろされた。もうダメだぁ〜逃げられん。

　その時、彼が聞いてきた。

　「・・・お前、子供おるんか？」

　「は？　・・はい。」

　「いくつだ！」

　「？？　もうすぐ・・才になりますけど・・・」

　どうやら彼は、助手席のチャイルドシートを見たらしい。

　「馬鹿やろう！　そんな小さな子供がおるんなら、もう少し人を見て運転しろ！！　お前、本当なら事務所で半殺しだぞ。よく人を見ろ！　人の顔をなぁ〜！！」

　彼はそう言いながら、幸いにも許してくれました。

　その場を去ってから、私は娘の写真を取り出し、合掌せずにはおれませんでした。

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今回の教訓：ケンカは勝っても負けても空しい。

1999-03-11
1999-03-15　題名を変更