大量生産方式で、電気スイッチを製造する。
私は、クーラー用のスイッチを作る班に配属され、
毎日、ベルトコンベアの横で組み立て作業をやらされた。

やがて班長になり、２つの製造ラインを任された。
一番若い班長だから、部下は全員パートタイマーのおばちゃん。
それでも総勢３０名ほどの規模があった。

まだ20歳くらいだったので、おばちゃん達から
「ボク、ボク！」と可愛がられ、チームワークは抜群で、
職場の成績もすこぶる良かった。

ところが、ある日のこと。
人事異動があり、社内でも何かと評判の人が、
私たちの上司としてやって来た。

おばちゃん達も私も、その人が前々から大嫌いだった。
嫌いな人の下では働きたくない。面白くない。というのは本音である。
とたんにチームワークが乱れ、成績もみるみる下がっていった。

人間関係までもおかしくなり、毎日のように口ゲンカが起きた。
中年の主婦は、人生のベテラン。その開き直りぶりには圧倒された。
私は、彼女たちとその上司の狭間で、ノイローゼになっていった。

社内で最も嫌いな人物が直接の上司。
しかも、部下は言うことを聞かず、もはや手がつけられない。
私は、耐えきれなくなり、無断欠勤した。

次の日、みんなが集まり、ミーティングをすることになった。
おばちゃん達は、なんとストライキをやると言いだした。
その時、私は必死に考えた。

どう言ったかは、はっきり憶えていない。
ただ「上司なんだから好きになるしかない」というようなことを
みんなに向かって一生懸命話したと思う。

すると、１カ月も経たない間に、成績が上がり始め、
職場も元のような仲良しグループに戻っていった。
私は、上司とうまくやれるようになったのが、一番うれしかった。

本当の話である。この体験をしてから、
私は、自分の苦手なタイプの人に出会うと、
いつも、あの懐かしいおばちゃん達のことを思い出す。

1996-10-04