自己変革の裏技

■ その五　ことだま返しの術

言霊（ことだま）とは、言葉に宿る霊力のことだ。言葉の不思議な働き、と言った方が分かりやすいかも知れない。勉強不足なので、専門的なことは何も書けないが、言霊というものに、注意を払うようになったきっかけくらいなら、私でも書けるだろう。

以前、日本でも有数の武術家といわれる人とお付き合いをしていたことがある。その人は、私より若かったためか、目の前で得意の武術を披露してくれなかった。そのため、彼が武術の達人ということは、ずっと後になってから知った。

で、ある日のこと。彼と、彼の仲間数人でホテルに入り、ロビーでお茶を飲んだ。私とは住む世界が違う人ばかりだ。しかし、みんな無邪気で気さくな連中。何を話していたのか思い出せないが、とにかく話に花が咲いた。

よほどメンバーの相性が良かったのかも知れない。時間を忘れて話し込み、全員でお腹をかかえて笑ったりした。あんなに会話が楽しいと感じた経験も珍しい。そんなところへ、突然、ホテルマンが現れた。

「お客さま、他の方のごめいわくになりますので、お静かにお願いします。」

私は、ハッと我にかえり、しまった・・と思った。他のみんなもバツの悪そうな顔をした。ところが、彼だけは違っていた。ホテルマンの方をくるりと振り向き、さわやかな顔でひと言。

「ありがとう！」と言った。

私は唖然とした。言われたホテルマンも一瞬きょとんとしたが、ニコッと笑い返し、向こうへ行ってしまった。その時に見せた彼の笑顔は今だに忘れられない。

以来、他人から攻撃ならぬ「口撃」を受けた場合は、絶妙のタイミングで言霊を発したいものだ、と思うようになった。

1996-10-04